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静岡地方裁判所 平成元年(ワ)390号 判決 1990年6月26日

主文

一  被告は、原告に対し、金七九八万八二五七円及びこれに対する昭和六二年六月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二〇九六万〇四〇五円及びこれに対する昭和六二年六月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、大正一一年七月二八日宮城県宮城郡利府村字菅谷三四番地にて出生し、昭和六二年六月当時、肩書地に居住し、養豚業及び残飯収集業を営んでいた者である。

被告は、昭和四二年一一月一七日静岡県焼津市焼津三九七番地の一において出生し、現在は、肩書地に居住し、静岡日立化成住機株式会社に勤務する者である。

2  被告は、昭和六二年六月二一日午前四時五五分頃、業務としてその所有する普通乗用自動車を運転し、静岡市中島八三三番地の三先道路を高松方面から用宗方面に向い時速約五〇キロメートルで進行中、前方を注視し、道路左側部分に進路を保持して進行すべき注意義務があるのに、カセットテープを取りかえることに気を奪われて脇見し、進路前方を十分注視しないまま前記速度で進行し、自車を、道路右側部分にはみ出させた過失により、自車を、対向してきた原告(当時六四年)運転の普通貨物自動車に衝突させた。

3  原告は、右事故により、右膝関節開放骨折、右前十字靱帯損傷、右母趾挫傷、顔面挫傷、右足関節内踝骨折の傷害を負った。

原告は、昭和六二年六月二一日、静岡厚生病院に入院し、同年九月一九日退院し、通院による治療を続けていたが、昭和六三年八月一一日、同病院に再入院し、同月二九日退院した。

原告は、その後、同病院に通院していたが、同年一〇月二八日、症状が固定したと診断された。

4  本件事故は、国道一五〇号線南安倍川橋上を西進中の被告が、飲酒運転の上前方注視を欠いたまま進行したため対向車線上にその所有の自車を進出させ、対向してきた原告車両に正面衝突させた一方的過失による悪質な交通事故である。

被告は、前方及び左右を注視して進路の安全を確認しつつ進行し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、また、運転に従事する者は、酒気帯び運転を禁止されているにもかかわらず、これに反して飲酒運転をした重過失により、原告に損害を与えたものであるから、民法七〇九条に基づき、また、被告は、加害車両を自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条に基づき、原告の被った損害を賠償する責任がある。

5  原告は、本件事故により、次のような損害を受けた。

(一) 傷害による損害 金二七一万六二五〇円

イ 付添看護費 金二二万九五〇〇円

一日に付き金四五〇〇円×付添日数五一日

(妻やゑ四三日間、長女初恵及び二女澄子で八日間)

ロ 入院雑費 金一三万二〇〇〇円

一日に付き金一二〇〇円×入院日数一一〇日間

ハ 通院交通費 金一一万四七五〇円

(1) 原告本人

タクシー代 金二万〇五四〇円

(2) 近親者

駐車場代(厚生病院駐車場) 金一万二九五〇円

バス代(下川原~厚生病院まで片道四〇〇円×三二回) 金一万二八〇〇円

タクシー代 金六万八四六〇円

ニ 傷害による慰謝料 金二二四万円

本件事故は、橋上での事故であり、原告は、被告の突然の進路変更に対して、逃げ場もなく、被告車両に衝突され、運転席にはさまれた。

原告の傷害による精神的、肉体的苦痛は、筆絶に尽くしがたく、金銭に評価すれば、少なくとも、金二二四万円を下らない。

(二) 休業による損害 金三八万三二三五円

原告は、本件事故により、本件事故の当日(昭和六二年六月二一日)より、養豚業及び残飯収集業を廃業した同年一〇月一三日までの一一五日間休業した。

原告の昭和六一年の実収入は、金三五〇万四一三七円であるから、原告の休業損害は、次のとおり金八八万三二三五円である。

<1> 原告の昭和六一年の実収入 金三五〇万四一三七円

<2> 原告の寄与率 八〇%

(3,504,137円×80%)÷365日×115日=883,235円

そして、昭和六二年一二月三〇日、被告の加入する任意保険団体の静岡県共済農業協同組合連合会より、金五〇万円が内払いとして、支払われた。

よって原告の休業による損害は、金三八万三二三五円である。

(三) 廃業による逸失利益 金一二九二万八九二〇円

原告は、昭和三五年四月、現住所において、養豚業及び残飯収集業を営んできたが、本件事故による原告の傷害のため、妻やゑ一人では続けることができず、やむなく、昭和六二年一〇月一三日、養豚をすべて売却して廃業した。

よって、原告の廃業による逸失利益は、左の算式にもとづき、金一二九二万八九二〇円となる。

<1> 原告の昭和六一年の実収入 金三五〇万四一三七円

(養豚の売上及び残飯収集代から経費を控除した額)

<2> 原告の寄与率 八〇%

<3> 生活費控除率 三〇%

<4> 就労可能年数八年に対応する新ホフマン係数六・五八八六

(3,504,137円×80%)×(100-30)%×6.5886=12,928,920円

(四) 後遺障害による慰謝料 金二四〇万円

原告は、昭和六三年一〇月二八日症状固定により、後遺症第一二級七号の障害を負った。

原告の右膝関節は、膝の骨はくぼんで傷跡が残り、長時間歩いたり、あぐらをかいて座ったりすると痛み、時々、疼痛もあるなど、その機能に障害を残している。

よって、原告の後遺障害による慰謝料は、金二四〇万円を下るものではない。

(五) 弁護士費用 金二五三万二〇〇〇円

請求額金一八四二万八四〇五円に対する標準額(着手金及び報酬金同額)

6  よって、原告は、被告に対し、自賠法三条及び民法七〇九条に基づく損害賠償金二〇九六万〇四〇五円及びこれに対する不法行為の翌日である昭和六二年六月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は不知。

4  同4のうち、本件事故の態様は認めるが、その主張は争う。

5  同5の事実は不知ないし争う。

6  同6の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の治療期間は、一六か月に及ぶものであるが、実際の治療は、九一日間の入院及び実通院三〇日が主なものであって、その後の一九日間の入院及び七日の実通院は、いわゆる抜釘を目的とするものであって、リハビリを主とするものである。

したがって、原告の慰謝料算定の基礎となる期間は、全入院日数一一〇日に実通院日数三七日の三倍程度を加えた合計七か月から八か月とするのが相当である。

2  原告の後遺障害の症状は、右膝関節開放骨折及び右足関節内顆骨折を主たる原因とするものであり、この結果、右足関節に軽微な機能的障害があるとするものであるが、右機能的障害は、いわゆる他動時には存在せず、自動時において、右膝の屈曲が健常時の三%程度、右足関節の底屈が健常時の一一%程度という可動域制限にとどまるものである。

また、原告の自覚症状は、いわゆる神経症状の残存か、年齢から来る変形性膝関節症から発現するものであって、本件事故を原因とする機能障害とはいえない。

したがって、原告の後遺障害は、右膝の神経症状残存を理由とする第一四級一〇号と認めるのが相当である。

3  原告は、昭和六二年一〇月一三日、養豚業及び産業廃棄物収集業を廃業したとして、逸失利益を、死亡した場合と同様の算定基準に基づいて算定している。

しかしながら、仮に、原告が本件事故により養豚業及び産業廃棄物収集業を廃業せざるを得なくなったとしても、本件症状固定の日である昭和六三年一〇月二八日以降も何ら就職稼働しなかったことが、本件事故による受傷の治療のために必要不可欠であるとは、到底認めることはできず、右同日以降就職稼働しないことが本件事故と相当因果関係があるとは認められないものであって、現に生活能力が存在する以上、労働能力低下による逸失利益として算定すべきである。

また、その労働能力の低下自体を評価・算定するには、その傷害の部位、程度、一般に傷害が筋肉的な労働の量に影響を及ぼす減弱の程度、その後遺障害のため受ける職業上の制約、就労方法の認定、現実に就業した場合の不利益、傷害の将来における改善の見込み等を総合考慮して算定すべきであって、原告のような高年齢者の場合には、これに経年性の労働能力の低下をも加味して考えるのを相当と解する。

4  被告は、原告の本訴請求の損害の填補として、原告に対し、金二五九万九六六五円を支払った。

第三  証拠<省略>

理由

一  原告主張の請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、請求原因3の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  そして、本件事故は、国道一五〇号線南安倍川橋上を西進中の被告が、飲酒運転の上前方注視を欠いたまま進行したため対向車線上にその所有の自車を進出させ、対向してきた原告車両に正面衝突させたものであることは当事者間に争いがないから、被告は、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、原告が被った損害を賠償すべき責任を免れないというべきである。

三  そこで、原告の被った損害について判断する。

1  傷害による損害 金二一三万四五四〇円

(一)  付添看護費 金二〇万四〇〇〇円

<証拠>によれば、原告が静岡厚生病院に入院中原告の近親者が五一日付添をしたことが認められるが、これによる原告の損害は、その症状に徴し、交通費も含めて一日に付き金四〇〇〇円として合計金二〇万四〇〇〇円をもって相当と認める。

(二)  入院雑費 金一一万円

原告は静岡厚生病院に一一〇日入院したことは前判示のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、原告は、その間相当額の雑費を支出したものと推認されるが、それによる原告の損害は、一日に付き金一〇〇〇円として合計金一一万円と認めるのが相当である。

(三)  通院交通費 金二万〇五四〇円

<証拠>によれば、原告は、静岡厚生病院に通院するため合計二万〇五四〇円の交通費を支出したことが認められる。

なお、原告は、近親者のタクシー代や駐車場代を交通費として請求するが、近親者の付添看護費と別個に認めるのは相当ではない。

(四)  傷害による慰謝料 金一八〇万円

原告の受傷の内容、程度、入通院期間等諸般の事情に鑑みれば、原告の傷害に対する慰謝料としては、金一八〇万円をもって相当とする。

2  休業による損害 金八八万三二三五円

<証拠>を総合すれば、原告は、昭和三五年四月頃から肩書住居地で妻とともに養豚業と残飯収集業を営んでいたが、本件事故による入通院治療のため昭和六二年六月二一日から同年一〇月一三日までの一一五日間休業を余儀なくされたこと、昭和六一年の養豚業による収入は金六六四万四四三三円、昭和六一年の残飯収集業による収入は金一七五万八〇〇〇円であり、これに要した経費は合計金四八九万八二九六円であったから、昭和六一年の実収入は金三五〇万四一三七円であったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、前掲各証拠によれば、原告は、豚舎の清掃、煮沸、給仕などは妻とともに行っていたが、残飯の収集、子豚の仕入れ、養豚の出荷のほかいわゆる力仕事は原告が一人で行っていたことが認められ、原告の右収入に対する寄与率は原告の主張のとおり八〇%と認めるのが相当であるから、その間の休業損害は合計金八八万三二三五円を下らないものと推認することができる。

3  廃業による逸失利益 金二七七万〇四八二円

(一)  <証拠>によれば、原告は、本件事故前養豚業と残飯収集業を営んでいたが、本件事故による入通院のため残飯の収集が不能となり、これにより養豚のための飼料が不足するとともに、妻だけでは養豚業を継続することができなくなったため、昭和六二年一〇月一三日、養豚業及び残飯収集業を廃業するに至り、何らの仕事にも従事していないことが認められ、原告の右業種、業態等に鑑みれば、右廃業それ自体は、やむを得ないものとして、本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

(二)  ところで、<証拠>によれば、原告は昭和六二年六月二一日、本件事故により、右膝関節開放骨折、右前十字靱帯損傷、右母趾挫傷、顔面挫傷、右足関節内踝骨折の傷害を負い、静岡厚生病院に救急車にて搬送されて、同月二九日、骨接合術として、右脛骨高原骨折・右足関節内踝骨折を整復・固定する手術を受けたこと、原告は、同病院に入院中、同年七月一八日まで、ギブスで固定し、同年九月一九日退院するまで、右膝及び右足首が曲がらなくなったので、リハビリテーション訓練の治療を受け、さらに、原告は、昭和六三年八月一一日、同病院に再入院し、右膝関節と右足首を固定するため入れられていたスクリューボート(釘)四本を抜く手術を受け、同月二九日、退院したこと、原告の症状は、同年一〇月二八日、後遺症を残して固定したが、原告の後遺症は、自覚症状として、「長く歩くと右膝と右足関節に疼痛が出現する。正坐を一〇分しかできない。階段では手すりが必要。」と診断され、機能的障害があるほか、外形上においては、「右下肢に創瘢痕4ケ所 長さ16cm、7cm、4cm、4cm」の醜状障害があることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  右認定の事実によれば、原告は、症状固定後何ら就職稼働していないが、後遺症による廃人同様の状態になったわけではなく、就労する意思と能力を有するものであり、高年齢とはいえ職種にこだわらなければ、就労して相当の収入を得ることも可能であるから、廃業により一〇〇%労働能力を喪失したものとみるのは社会通念上相当ではなく、その労働能力の低下自体を評価・算定するには、その傷害の部位、程度、一般に傷害が筋肉的な労働の量に影響を及ぼす減弱の程度、その後遺障害のため受ける職業上の制約、就労方法、現実に就業した場合の不利益、傷害の将来における改善の見込み等を総合考慮して算定すべきが相当というべきであるところ、原告の年齢(大正一一年七月二八日生)、職業、経歴、後遺症の内容・程度、就業の難易、現在就労していないこと等諸般の事情を総合考慮すれば、原告としては、症状固定後八年にわたって一五%程度の労働能力を喪失したものとして逸失利益を算定するのが相当であると判断する。

(四)  そして、原告の昭和六一年の実収入は金三五〇万四一三七円の八〇%に相当する金二八〇万三三〇九円(一円未満切捨)であること前認定のとおりであるから、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の現価を算出すると、その額は、計算上金二七七万〇四八二円(一円未満切捨)となる。

4  後遺障害による慰謝料 金二〇〇万円

原告の前記認定の後遺症の内容、程度等の諸事情に徴すれば、原告の後遺障害に対する慰謝料としては、金二〇〇万円をもって相当とする。

5  弁護士費用 金七〇万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等の諸事情によれば、原告が被告に対して請求し得る弁護士費用としての損害は、金七〇万円をもって相当と判断する。

6  損害の填補 金五〇万円

弁論の全趣旨によれば、被告側は、原告に対し損害の一部填補として金二五九万九六六五円を支払ったことが推認されるが、そのうち金二〇九万九六六五円は原告が本訴で請求していない治療費の填補として支払われたものと窺われるところであるから、本訴請求の損害に対する填補としては金五〇万円であり、これを控除すべきものというべきである。

四  以上認定判断したとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し、前記三の1ないし5の損害合計金八四八万八二五七円から同6の金五〇万円を控除した残額金七九八万八二五七円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和六二年六月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを正当として認容するが、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎 勤)

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